監査計画と監査手続
(2021年6月1日更新)
1.監査計画
この章では、監査人による監査がどのような流れで行われるか解説します。(監査基準委員会報告書300「監査計画」(日本公認会計士協会監査基準委員会 2019年6月12日改正)参照。)
1.監査契約の更新(または新規締結)
まず、監査契約の更新の可否について、手続を実施します。
初年度監査の場合は、前任監査人からの引継ぎに関する手続も行います。
2.監査計画の基本的な方針の策定
次に、詳細な監査計画を作成するための指針となるように、監査業務の範囲、監査の実施時期及び監査の方向性を設定した監査の基本的な方針を策定します。
3.詳細な監査計画の作成
以下の事項を含む詳細な監査計画を作成します。
(1) 監査基準委員会報告書315「企業及び企業環境の理解を通じた重要な虚偽表示リスクの識別と評価」により計画するリスク評価手続の種類、時期及び範囲
(2)監査基準委員会報告書330「評価したリスクに対応する監査人の手続」により計画するアサーション・レベルのリスク対応手続の種類、時期及び範囲
(3)他の監査基準委員会報告書等における要求事項により計画する監査手続(A12項からA14項 参照)
監査期間中、必要に応じて、監査の基本的な方針及び詳細な監査計画を見直し修正します。
4.監査手続の実施
監査計画に従い監査手続を実施します。
5.監査報告書の作成・提出
監査手続終了後、理事会宛に監査報告書を提出します。
2.監査手続(予備調査の部)
次は監査手続です。
実際の監査手続は監査人が個々に判断して決定しますが、ここでは一般的、共通的に行われている監査手続について解説します。(学校法人委員会研究報告第1号「学校法人監査手続指示書」(日本公認会計士協会 平成9年3月24日付)参照。)
監査手続は大きく分類して以下4つに区分されます。
Ⅰ.予備調査の部
Ⅱ.資金収支計算・消費収支計算の部
Ⅲ.貸借対照表の部
Ⅳ.実査・確認・立会の部
まず、「Ⅰ.予備調査」で行われる一般的な監査手続は以下の通りです。
1.学校法人の概況を把握する。
2.学校法人の過去における資金収支及び消費収支の状況、財政状態の概要を把握するため、趨勢表を作成する。
3.内部統制の信頼性の程度を確かめるため手続を実施する。
4.学校法人の採用する会計処理の原則及び手続が学校法人会計基準及び一般に公正妥当と認められる学校法人会計の原則に従っていることを確かめる。
5.予算の編成及び執行が有効に行われていることを確かめる。
6.期首貸借対照表科目の勘定残高の妥当性を確かめるため手続を実施する。
学校法人の概況や内部統制について、質問や帳簿閲覧などの手続を行います。
3.監査手続(資金収支計算・消費収支計算の部)
次に、「Ⅱ.資金収支計算・消費収支計算の部」に関する監査手続に移ります。
ここでは、「学生生徒等納付金収入」「手数料収入」「人件費支出」など勘定科目ごとに、前会計年度からの注意点や会計処理基準の確認などを行う一般的事項、取引記録の監査手続、計算書類項目の監査手続の3区分に分けて監査手続が例示されています。
ここでは、学校法人の主要科目である「学生生徒等納付金収入」の取引記録の監査手続を取り上げます。
取引記録の監査手続
1.学生生徒等納付金収入、前受金収入の月次計上一覧表(小科目別、部門別及び学年別)を入手(又は作成)し、計算調べを行った上、資金収支元帳及び総勘定元帳と照合する。
2.上記1.の一覧表から一定の選定基準により対象項目を抽出し、下記の手続を実施する。
(1)計上額について、学生生徒等納付金に関する規程等に従って収入手続が適正に行われていることを確かめる。
(2)計上額について、会計伝票、募集要項、納付金一覧表、学生生徒等納付金台帳、納入票、領収書控、払込通知書、振込金案内、当座照合表等により、その金額、計上時期及び科目の妥当性を確かめる。
(3)上記入金額について、現金・預金出納帳と照合し、入金記録との対応を確かめる。
(4)入学辞退者に係る返金支出について、その処理科目、金額の妥当性を確かめるため、会計伝票、領収書、現金・預金出納帳等と照合する。
3.在学者数を確かめるため、次の手続を行う。
(1)在学者数一覧表と在学者名簿を照合する。
(2)学生異動簿と休学・退学・復学等に関する届出書及び除籍に関する通知書控を照合する。
4.入学者数を確かめるため、次の手続を実施する。
(1)合格者名簿(推薦入学者等を含む)と入学手続者名簿を照合する。
(2)入学手続者名簿と学生生徒等納付金台帳を照合する。
5.入学辞退者がある場合には、入学金等の納付状況を確かめ、また、納付金を返還する場合は、返金に関する規程を閲覧し、手続が適正に行われていることを確かめる。
6.特例扱いの措置が正しく処理されていることを確かめるため、次の手続を実施する。
(1)減免者名簿と減免申請書、決裁書を照合する。
(2)減免を行った場合、減免額控除前の金額で収入に計上されていることを確かめる。
(3)納付方法が定められた方法以外による場合、募集要項、分納申請書、決裁書等を閲覧する。
7.勘定分析を行い、小項目の区分の妥当性を検討するとともに、参入してはならない項目が混入しないことを確かめる。
なお、計算書類項目の監査手続は、取引記録の監査手続に加えて、前年度に計上した前受金の振替処理や、期末未収入金の計上額の妥当性や回収可能性などを確かめる手続が追加されています。
「Ⅲ.貸借対照表の部」の監査手続も、「Ⅱ.資金収支計算・消費収支計算の部」に関する監査手続と同様の様式で定められています。
4.監査手続(実査・確認・立会の部)
最後に、実査・確認・立会について解説します。
- 実査:現金や株券などの資産が実在するかどうか確かめるために、監査人が現物の数を数えて確かめる手続
- 確認:預金や借入金などの金融機関のとの取引や、未収入金などの債権の残高など、残高の実在性を確かめるために、監査人が文書で直接取引先に問い合わせを行い、回答を入手する手続
- 棚卸立会:学校法人が会計年度末に棚卸資産の数量を数え、帳簿との一致を確認する際に、監査人が視察をしたり一部抜き取って数えたりする手続
ここでは、現金の実査について取り上げます。
1.現金(現金等等価物を含む)を実査し、実査表に金種・数量・金額・内容をボールペン又は万年筆によって記載する(又は、入手した金種別在高表と照合する)。
2.現金等等価物については、実査日以前の入金記録と照合し正当に受入記帳されたものであることを確かめる。
3.メモ書、借用証等による仮払が現金勘定に含まれている場合は、現金出納帳と照合し、その内容について責任者に質問を行い、資産性の有無及び科目区分の妥当性を確かめる。
4.現金の実査表と現金出納帳の残高を照合する。
5.学校法人所有でない現金を補完している場合、それらについても実査し、その管理簿と照合する。また、預り理由の合理性を質問等により確かめる。
6.現金の実査終了と同時に小切手、手形及び領収書用紙等に関するカット・オフ(期間帰属)情報を下記の要領で入手する。>
(1)実査時における小切手、手形の最終使用番号及び未使用番号の明細書を入手(又は作成)する。
(2)最終使用番号以前の一定期間のものについて、当該管理簿及び現金出納帳等によりすべて使用され、又は書き損じとして保管されていることを確かめる。
7.提示を受けた現金を実査終了後担当者に返還し、下記の事項を記載した監査調書に担当者の受領印をもらう。
(1)実査日時、場所、監査人氏名
(2)担当者の責任において保管している現金はすべて監査人に提示した旨
8.各部署に小口現金が保有されている場合には、それぞれの部署の現金を実査し、小口現金出納帳と照合する。
9.定額前渡制度を採用している場合には、現金の実査と同時に支出済みの領収書等を検証し、かつ、これらの合計額が定額前渡金額と一致していることを確かめる。
10.実施した手続の要約、未了事項及び次回実査の参考事項を監査調書に記載する。
なお、実査が期末日以外に行われた場合には、調整計算を行うなど追加手続きを行います。