学校法人会計における注記事項ー重要な会計方針等
(2021年6月1日更新)
1.重要な会計方針の注記
重要な会計方針の注記の記載例は以下になります(「学校法人会計基準の一部改正に伴う計算書類の作成について(通知) 」(平成17年5月13日17高私参第1号)(別添2)注記事項記載例)。
【記載例】
1.重要な会計方針
(1)引当金の計上基準
徴収不能引当金
・・・未収入金の徴収不能に備えるため、個別に見積もった徴収不能見込額を計上している。
退職給与引当金
・・・退職金の支給に備えるため、期末要支給額×××円を基にして、私立大学退職金財団に対する掛金の累積額と交付金の累積額との繰入れ調整額を加減した金額の100%を計上している。
(2)その他の重要な会計方針
有価証券の評価基準及び評価方法
・・・移動平均法に基づく原価法である。
たな卸資産の評価基準及び評価方法
・・・移動平均法に基づく原価法である。
外貨建資産・負債等の本邦通貨への換算基準
・・・外貨建短期金銭債権債務については、期末時の為替相場により円換算しており、外貨建長期金銭債権債務については、取得時又は発生時の為替相場により円換算している。
所有権移転外ファイナンス・リース取引の処理方法
・・・リース物件の所有権が借主に移転すると認められるもの以外のファイナンス・リース取引については、通常の賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理によっている。
預り金その他経過項目に係る収支の表示方法
・・・預り金に係る収入と支出は相殺して表示している。
食堂その他教育活動に付随する活動に係る収支の表示方法
・・・補助活動に係る収支は純額で表示している。
上記(1)の引当金の計上基準については記載が必須ですが、(2)の各項については重要性のある場合にのみ記載が求められています。
●重要性の基準
ここで、重要性の基準をどのように考えるかが問題となりますが、学校法人の規模はそれぞれであり、重要性の判断を明確な数値基準で設けることは難しいと考えられ、学校法人会計基準や通知においても明確な数値基準はありません。ただ、一般的には、貸借対照表の総資産額や事業活動収支計算書における基本金組入前当年度収支差額の金額をベースに重要性を判断することになります。企業会計においては、貸借対照表の総資産額の1%、当期純利益の5%相当を重要性基準と用いることもあることから、これらも1つの目安になるかと思います。
重要性の基準値は、あまりにも大きな金額で設定してしまうと計算書類の利用者にとって有益な情報が得られなくなる一方で、あまりにも小さい金額で設定してしまうと事務コストが多大になってしまうおそれがあるので、監査人とも相談しながら慎重に設定するのがよいかと思います。
●有価証券の評価基準
有価証券の評価基準は、学校法人会計基準第25条に従って、原価法となります。ただし、満期保有目的債券については、償却原価法を採用することも認められています。また、評価方法については、「退職給与引当金の計上等に係る会計方針の統一について(通知)」(平成23年2月17日22高私参11号)において、平成23年度から移動平均法に統一されました。
●たな卸資産の評価基準
たな卸資産の評価基準は、有価証券と同様、原価法になります。一方で、評価方法は、先入先出法、移動平均法、最終仕入原価法など様々なものがあり、学校法人で定めることになります。
●外貨建資産・負債の円換算方法
外貨建資産・負債の円換算方法としては、取得時又は発生時の取得時レートを使う場合と期末時の決算日レートを使う場合と両方が考えられます。記載例にあるとおり、流動・固定に区分して取得時レートと決算日レートを使い分けることもあります。なお、取得時レートを採用している場合は、取得時レートと決算日レートの換算差額について注記することが求められています。
●預り金と食堂その他教育活動に付随する活動に係る収支の注記
預り金と食堂その他教育活動に付随する活動に係る収支の注記は、総額表示が原則であるものの、学校法人会計基準第6条で純額表示を認めており、このため、純額表示を採用した場合には注記にてその旨の記載が必要となります。
2.重要な会計方針の変更等
重要な会計方針の変更等には、「重要な会計方針の変更」「表示方法の変更」「会計上の見積りの変更」があります。
学校法人委員会研究報告第16号「計算書類の注記事項の記載に関するQ&A」(最終改正平成26年12月2日、公認会計士協会)Q12 において、重要な会計方針の変更等の注記の記載方法について、規定されています。
(1)会計方針の変更
会計方針の変更とは、従来採用していた一般に公正妥当と認められる会計方針から他の一般に公正妥当と認められる会計方針に変更することをいいます。重要な会計方針を変更したときは、変更の旨、変更理由及び当該変更が計算書類に与える影響額を注記します。ただし、当該変更又は変更による影響額が軽微である場合は注記する必要がありません。
会計方針は、正当な理由により変更を行う場合を除き、毎期継続して適用します。正当な理由による会計方針の変更に該当するものは以下のとおりです。
① 会計基準等の改正に伴う会計方針の変更
会計基準等の改正によって特定の会計処理の原則及び手続が強制される場合や、従来認められていた会計方針を任意に選択する余地がなくなる場合など、会計基準等の改正に伴って会計方針の変更を行うことをいいます。
会計基準等の改正には、既存の会計基準等の改正又は廃止のほか、新たな会計基準等の設定が含まれます。
② ①以外の正当な理由による会計方針の変更
正当な理由に基づき自発的に会計方針の変更を行うことをいいます。
この場合の正当な理由については、次のとおり判断することが適当です。
・会計方針の変更は学校法人の事業内容及び学校法人内外の経営環境の変化に対応して行われるものであること。
・変更後の会計方針が一般に公正妥当と認められる学校法人の会計基準に照らして妥当であること。
・会計方針の変更は会計事象等を計算書類により適正に反映するために行われるものであること。
・会計方針の変更が財務情報を不当に操作することを目的としていないこと。
③ 会計方針の変更に類似する事項
以下の事項は、会計処理の対象となっていた事実に係る見積りの変更又は新たな会計処理の採用等であり、会計方針の変更には該当しません。
・会計上の見積もりの変更
・重要性が増したことに伴う本来の会計処理への変更
・新たな事実の発生に伴う新たな会計処理の採用
(2)表示方法の変更
表示方法の変更とは、従来採用していた一般に公正妥当と認められる表示方法から他の一般に公正妥当と認められる表示方法に変更することをいいます。
表示方法は次のいずれかの場合を除き、毎期継続して適用します。
① 表示方法を定めた会計基準又は法令等の改正により表示方法の変更を行う場合
② 会計事象等を計算書類により適切に反映するために表示方法の変更を行う場合
表示方法とは、一般に計算書類項目の科目分類、科目配列及び報告様式をいい、表示方法の変更には、貸借対照表の固定資産又は流動資産の区分や収支計算書の同一区分内での勘定科目の区分掲記、統合若しくは勘定科目名の変更等を行うものと、当該区分を超えて表示方法を変更するものがあります。前者は単なる表示方法の変更であるが、後者の区分を超えての表示方法の変更は、重要な表示方法の変更として扱い、重要な会計方針の変更と同様、「重要な会計方針の変更等」に含めて注記します。
重要な表示方法を変更したときは、変更の旨、変更理由及び当該変更が計算書類に与える影響額を注記します。ただし、当該変更又は変更による影響が軽微である場合は注記することを要しません。
(3)会計上の見積りの変更
会計上の見積りの変更は、会計方針の変更には該当しませんが、計算書類に重要な影響を与える場合は、重要な会計方針の変更に準じてその内容及び計算書類に与える影響額を注記することが望ましいとされています。